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東京地方裁判所 昭和56年(行ウ)88号

原告

松岡判治

右訴訟代理人弁護士

宍戸孝

被告

渋谷労働基準監督署長酒巻敏夫

右指定代理人

立石健二

可部丈雄

今井康友

村田清吾

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対して昭和五四年一月三一日付けでした労働者災害補償保険法による休業補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、事業主大同通信工業株式会社の下請負人である倉本建設株式会社に土木作業員として雇用され、昭和五三年二月二三日午後二時ころ、東京都杉並区和泉四丁目一番地先の永福線電話増設工事現場(以下「本件工事現場」という。)において、電話線用地下マンホールにダクト口(通信管用導路取付け口)を設置するため、同線一二番マンホール(縦三メートル、横一・四メートル、深さ一・七メートル)内に入り、ブレーカー(ピックハンマー)を使用して同マンホールのコンクリート製側壁の破壊作業(以下「本件作業」という。)に従事していた。

2  原告は、本件作業に従事中、本件作業によって発生する騒音(衝撃音)及び振動により、左耳に混合性難聴ないし感音性難聴の傷害を受け、そのため翌二四日から岩間医院、浄風園病院及び青梅市立総合病院に通院して治療を受けたが、症状は好転せず、同年一一月一三日症状固定とされた。原告は、右期間中、通院のため、また、左耳が聞こえないことにより作業に従事することに多大の危険があるため、休業せざるを得なかった。

3  原告は、被告に対し右傷害について労働者災害補償保険法による休業補償給付の請求及び休業特別支給金の申請をしたが、被告は、昭和五四年一月三一日付けでこれを支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。

原告は、本件処分について、昭和五四年三月三〇日東京労働者災害補償保険審査官に対し審査請求をしたが、同年一一月八日付けでこれを棄却され、同年一二月二八日労働保険審査会に対し再審査請求をしたが、同審査会は昭和五六年六月四日付けでこれを棄却する裁決をし、その裁決書謄本は同月五日再審査請求人代理人に送付された。

4  本件処分は、原告の傷害についていわゆる業務起因性を否定しているが、以下の諸事情に鑑みると、原告の傷害と本件作業による騒音又は振動との間の相当因果関係は十分に肯定し得るから、本件処分には右相当因果関係の存否について事実誤認又は経験則違背の違法がある。

(一) 原告の左耳の鼓膜に異常はなく、原告には耳に関する既往症や難聴の素因もなかった。

(二) 原告は、本件当日、本件作業前には左耳の聴力も含め体調に異常はなく、午前八時ころから本件工事現場に出勤し、当日予定されていた二か所のマンホールダクト口破壊作業に従事し、うち一か所について異常なく作業を終えたのち、一二番マンホール作業に取り掛かり、その作業が終わりに近付いたとき、共に作業をしていた同僚の呼び掛ける声が突然聞こえなくなり、目まいを感じるとともに、左耳がしびれるような無感覚の状態に陥った。

(三) 本件作業は、前記のとおり、マンホール内でブレーカーを使用してコンクリート製側壁を破壊するものであり、その際強烈な衝撃音が発生するが、右ブレーカーにはカバーが付いていないので、その騒音度は一二〇ホン以上に達し、これが狭いマンホール内で反響倍加する。また、本件作業の際、ブレーカーを把持する両手から作業員の全身に伝わる振動もまた激甚なものである。このような状況があるにもかかわらず、原告ら作業員は、事業主又は使用者から、耳栓その他の保護具を全く供与されていなかったのであるから、聴力に異常をきたす可能性は十二分に存在した。

(四) 原告の難聴は、浄風園病院、青梅市立総合病院、東京労災病院及び信州大学医学部附属病院の検査結果によると、感音性成分の強い混合性難聴であり、福生病院の検査結果によると、感音性難聴であると考えられる。感音性難聴及び混合性難聴は、いずれも本件のような騒音又は振動によって生じ得るものであり、混合性難聴は、年齢的な原因で生じることはなく、騒音又は振動に原因がある場合には徐々に増悪の経過をたどることになる。

(五) 以上のように、本件作業によって難聴の発生する可能性があり、他に原告について難聴の原因が見当たらない以上、原告の難聴の原因としては本件作業の可能性が最も高く、両者の間には相当因果関係があるというべきである。

5  よって、原告は、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項中、受傷の事実は争い、休業の理由は不知、その余の事実は認める。

3  同第3項の事実は認める(ただし、東京労働者災害補償保険審査官の棄却決定は昭和五四年一〇月三〇日付けであり、労働保険審査会の裁決は昭和五六年五月二一日付けである。)。

4  同第4項は争う。

労働基準法施行規則三五条別表にいう「難聴」には、急性に生じる災害性難聴と慢性的疾患としての職業性難聴とがある。本件で問題となるのは前者であるが、これは、医学的には「急性音響性聴器障害」とも称し、一般に自覚症状が時間的及び部位的に明確な裏付けをもって訴えられ、各種検査により明確に把握されるものであって、強烈な音が急激に反復された場合に起こり、耳痛、耳鳴り、難聴、耳閉塞感を訴え、まれに頭痛、目まいを訴えることもある。しかし、このような難聴は、治療効果が期待でき、受傷直後よりも治療後の方が増悪するということは考えられず、また、感音性難聴であることが多く、伝音性難聴であることはほとんどない。

ところが、原告の難聴には次のような特徴がある。

(一) 原告が受診した各医師の診断及び意見によれば、伝音性難聴であって感音性難聴でなく、仮に感音性難聴があったとしても、それは軽度のものである。

(二) 青梅市立総合病院で症状固定と診断された昭和五三年一一月一三日の時点よりも、その後昭和五四年七月に信州大学医学部附属病院で診察を受けた時の方が骨導聴力(低音部)について増悪がみられる。

(三) 骨導聴力については、左耳も右耳とほぼ同値を示し、左耳だけの低下はなく、特に青梅市立総合病院での検査によると、骨導聴力にはほとんど異常がない。

(四) 原告は、以前にも同じ会社で同じ作業をした経験があるが、そのときは難聴に罹患していない。

(五) 多数の同僚が原告と同じ作業を同じ条件で(耳栓をしないで)行っているが、ブレーカーの騒音によって耳の異常を訴えた者はいない。

以上によると、原告の難聴は、騒音や振動によるものとは認められず、その原因は不明といわざるを得ないから、本件処分には何らの違法もない。

第三証拠(略)

理由

一  原告が被告に対し労働者災害補償保険法による休業補償給付等の請求をしたが、被告は昭和五四年一月三一日付けでこれを支給しない旨の処分をしたこと、この処分について原告は東京労働者災害補償保険審査官に対し審査請求をしたが棄却され、労働保険審査会に対する再審査請求も棄却されたことは、当事者間に争いがない。

二  原告の聴力障害の発生状況

請求原因第1項の事実は、当事者間に争いがない。そして、(証拠略)によれば、更に次の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

1  原告は、二、三十年前から土木作業員として飯場を回る生活をしており、昭和四三年ころからは倉本建設にも時々雇用されて土木作業に従事し、本件作業と同じようにマンホール内でブレーカーを使用する作業を行ったこともあった。原告は、昭和五三年二月初め、倉本建設を訪れて雇用方を申し込み、その承諾を得たので、一日仕事をした後、いったん山梨県の自宅へ戻り、荷物を持って同月二一日ころ倉本建設の飯場へ入った。そして、原告は、同月二二日に電話線の配管工事に従事し、翌二三日は、午前八時ころ本件工事現場に出向いて、当日予定されていた二か所のマンホールでの側壁破壊作業を開始した。

2  原告は、もう一人の作業員と共に、午前中に一か所のマンホールでの作業を異常なく終え、午後からもう一か所の一二番マンホール内での本件作業に取り掛かった。作業は、ブレーカーを使用して厚さ約二〇センチメートルのコンクリート製の側壁に穴を開けるもので、それによる騒音と振動が激しいので、原告と他の作業員とが約五分交代で行っていたが、原告は、作業に当たり、耳栓をしていなかった。そして、作業が終わりに近付いた午後三時ころ、原告は、急に左耳が聞こえなくなったのを感じた。原告は、本件作業を終えた後、本件工事現場に来ていた他の者に「耳がおかしくなった」と告げたが、「一晩寝れば治るよ」と言われたので、そのまま飯場に帰ったが、翌朝になっても左耳の聴力異常に変化がなかった。

三  原告の受診状況及び診断結果

原告が昭和五三年二月二四日から岩間医院、浄風園病院及び青梅市立総合病院に通院して治療を受けたが、症状が好転せず、同年一一月一三日に症状固定とされたことは、当事者間に争いがなく、この事実に、(証拠略)を総合すれば、次の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

1  原告は、聴力異常を生じた翌日である昭和五三年二月二四日と二五日に岩間医院に通院し、岩間重夫医師の診療を受け、「左側自声強調兼聴力障害」を訴えたが、「鼻粘膜発赤、軽度腫脹、粘液性分泌物少量、咽頭発赤軽度、左鼓膜異常所見ほとんどなし」との症状により「急性鼻炎、咽頭炎、左耳管カタル」と診断された。原告はこの二回で同医院への通院を中止したため、聴力検査等は特に施行されなかった。

2  原告は、同月二七日から同年三月一四日まで浄風園病院に通院し、「左耳難聴」を主訴として、米山滋子医師に一〇回の診療を受けた。初診時に「鼓膜は強度の内陥、白濁」の症状が見られたので、耳管通気、鼻咽頭諸処置が施行され、七日分の投薬がされた。この間、二月二八日と三月七日には聴力検査が行われ、別表(略)(1)ないし(4)の各<1>及び<2>の結果が得られた。そこで、米山医師は、原告の傷病名を「左伝音系難聴、両軽度神経難聴」と診断した。

3  原告は、更に、同年三月一三日から青梅市立総合病院に転医し、「難聴」を主訴として、山田昭三医師の診療を受けた。「鼓膜所見両側異常なし、耳管通気良、中耳腔やや湿潤の感じ」との所見により、原告は、同年一一月まで、一か月に二ないし五回通院して症状に対する投薬を受け、その間、三月二二日、五月一八日、八月九日及び一一月九日に聴力検査を受けた。その結果は、別表(1)ないし(4)の各<3>ないし<6>のとおりであった。山田医師は、左耳の聴力が不変のままであったので、治療による効果は望めないものと考え、同年一一月一三日、症状固定と判断し、治療を中止した。同医師が付した原告の傷病名は「左混合性難聴」であり、「左側伝音系難聴に関しては、以前からカタル性の疾患があったかどうかは判別不能」とされた。

4  原告は、その間の同年一〇月二四日、請求原因第3項のとおり休業補償給付等の請求をしたので、被告は、同年一二月一四日、東京労災病院の和田昌士医師に対し、原告の難聴がブレーカー使用の業務に起因するものかどうかについての診断と意見の提出を求めた。和田医師は、同月一九日、原告の聴力検査を行い、別表(1)ないし(4)の各<7>の結果を得、「左耳混合性難聴」との診断をしたが、被告から送付された前記1ないし3の各医師の意見書をも併せ考慮のうえ、「音響外傷による難聴又は振動器具使用による難聴とは考えにくい難聴で、はっきりと仕事中に起きた業務による難聴とは言いにくい」との意見を述べた。

5  原告は、その後、東京労働者災害補償保険審査官からの嘱託による長野労働者災害補償保険審査官の依頼を受けた信州大学医学部附属病院の菊川正人医師の診断を受けた。菊川医師は、昭和五四年七月一七日、原告の聴力検査を行って別表(1)ないし(4)の各<8>の結果を得たので、「左感音性難聴(中等度)+左伝音性難聴」との診断をした。

6  原告は、更に、再審査請求棄却の裁決書が送付された後の昭和五六年七月一〇日、福生病院の大和田健次郎医師の聴力検査を受け、別表(1)ないし(4)の各<9>の結果により「左側感音難聴。災害当時以前の聴力検査はないが、災害時諸検査の結果、災害性難聴と思われる。中耳炎はない」との診断を得た。

四  原告の難聴の業務起因性の有無

1  原告の聴力検査結果の検討

原告は、前記認定のとおり、昭和五三年二月二八日に最初の聴力検査を受け、以後合計九回の聴力検査を受けているが、その第一回の聴力検査においては、左右両耳とも、第二回以降とはかなり異なった大きめの聴力損失値を示している。これは、後記のとおり正常耳である右耳についてもその傾向がはっきりしていることや、証人和田昌士の証言(第一回)及び鑑定人枝松秀雄の鑑定結果に照らせば、原告が聴力検査に慣れていなかったために不正確な数値となったか、あるいは、原告が聴力に異常を生じてからまだ日が浅いために騒音環境下において生じた一過性の聴力低下現象が残存していたことを示す数値が現われたものと推認することができる。

これに対し、同年三月七日の第二回聴力検査以降は、多少のばらつきはあるものの、同年一一月九日の第六回聴力検査まで、総じて、ほぼ同じような検査結果が得られている。そのために、原告は、同月一三日に症状固定との診断を受けたのであるが、この間の五回の聴力検査における聴力損失値の平均値をみると、別表(1)ないし(4)の各「<2>~<6>平均」欄に記載のとおりとなる。

ところが、同年一二月一九日の第七回聴力検査においては、右耳はそれまでとほぼ同様の聴力損失値を示したのに対し、左耳は、骨導聴力が一〇〇〇ヘルツ以上の音域でかなり急激な低下を示し、気導聴力も五〇〇ヘルツ以下の音域及び四〇〇〇ヘルツの音域で同様の急激な低下を示している。しかし、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件作業の後は騒音環境下における作業に従事したことがないことが認められ、しかも、前回の聴力検査の結果により症状固定とされてからまだ約四〇日しか経過していないのであるから、それにもかかわらずこのような急激な聴力低下が生じるというのは、容易に理解し難いところである。

原告は、更に、昭和五四年七月一七日と昭和五六年七月一〇日に、第八回及び第九回の聴力検査を受けたが、その結果は、右耳の気導聴力が、第八回にむしろ良化した様子が窺われるものの、第九回で再び従前と同様の聴力損失値を示したのに対し、左耳は、骨導聴力が第八回に五〇〇ヘルツ以下の音域で急激な低下を示し、第九回には全音域にわたって更に低下を示しており、気導聴力も、第八回には全般に第六回と似通った聴力損失値を示しながら、第九回では全般にこれまでで最も大きな聴力低下を示している。しかし、これらの聴力検査は、原告の聴力障害の発生から約一年五か月及び約三年五か月経過した後に行われたものであって、特に左耳の聴力損失値が症状固定時に比し大きな隔たりを示していることを考慮すると、これらの検査結果に現われた聴力低下を本件作業と結び付けて考えることは困難である。

そうすると、原告の難聴について業務起因性を検討するに当たっては、昭和五三年三月から一一月までに行われた第二回から第六回までの五回の聴力検査の結果を考慮の対象とするのが相当である。

2  原告の聴力低下の程度

原告本人尋問の結果によれば、原告は大正元年一〇月一五日生まれであることが認められるから、本件作業時及び第二回ないし第六回の聴力検査時は満六五ないし六六歳であったところ、鑑定人枝松秀雄の鑑定結果によれば、原告の右耳の気導聴力はその年齢からみて平均的な値を示し、加齢に伴う聴力損失以上には難聴は進行していないことが認められ、原告の右耳の聴力は正常であるということができる。

一方、原告の左耳の聴力については、第二回から第六回までの五回の聴力検査の結果の平均値によれば、気導聴力は全音域において五二ないし六九デシベルの聴力損失値を示し、成立に争いがない(証拠略)によれば、これは聴力のおよそ五〇パーセントを損失しているものであることが認められるが、他方、骨導聴力は、四〇〇〇ヘルツの音域で三八・三デシベルの聴力損失値を示すほかは、他の音域で五ないし二四デジベルの聴力損失値を示すにとどまっており、右耳の骨導聴力損失値と比較しても、全音域において三ないし一一デシベルの聴力低下がみられるにすぎない。

これらの数値及び鑑定人枝松秀雄の鑑定結果によれば、原告の左耳の骨導聴力は、右耳のそれと比較すれば軽度の聴力低下が認められるものの、年齢からみた平均値との間に有意の差があるほどのものとはいえず、これに対し左耳の気導聴力の低下が著しいのであって、骨導聴力の低下は気導聴力の低下に比してほとんど問題にならないことが認められる。

3  原告の難聴の種類

(証拠略)、証人和田昌士の証言(第一、二回)及び鑑定人枝松秀雄の鑑定結果によれば、難聴は病変の部位により伝音性難聴(外耳から中耳伝音系までの伝音器の障害によるもの)と感音性難聴(蝸牛より中枢側の感音器の障害によるもの)とに二大別され、伝音性難聴では骨導聴力は正常で気導聴力のみが低下するのに対し、感音性難聴では気導聴力と骨導聴力とが一致して低下すること、また、気導聴力の低下とともに骨導聴力もある程度低下する(骨導聴力の低下が気導聴力の低下に一致しない)場合は、伝音器、感音器の両者が侵された混合性難聴であって、骨導聴力低下の程度が感音性難聴の成分を示すことが認められ、この認定に反する証拠はない。そうすると、原告の左耳の難聴は、前記認定のような骨導聴力及び気導聴力の低下の程度からすれば、伝音性難聴か、軽度の感音性難聴の成分を含む混合性難聴であるということができる。

4  原告の難聴と本件作業との因果関係

更に、(証拠略)、証人和田昌士の証言(第一、二回)及び鑑定人枝松秀雄の鑑定結果によれば、音響による難聴は感音性難聴であって、両耳に生じることが多く、音響により伝音性難聴となるのは、音響に伴う急激な外圧の変化により鼓膜穿孔や耳小骨連鎖離断が生じたような場合であること、振動により難聴が発生するか否かについては学会でも定説が未確立であって、振動が音響と共に負荷された場合には、音響のみによるよりも障害が大きくなる可能性はあるものと考えられていることが認められる。

ところで、前記認定のとおり、原告は本件作業従事中に左耳に聴力異常を生じたものであるところ、成立に争いがない(証拠略)によれば、原告は本件作業時に少なくとも一一五ホン程度の騒音にさらされていたことが認められ、また、ブレーカー使用には激しい振動が伴うことも前記認定のとおりである。そこで、この騒音と振動が原告の難聴の原因となったかどうかを考えることとなるが、原告の難聴は前記のように伝音性難聴か軽度の感音性難聴の成分を含む混合性難聴なのであり、また、本件作業の内容は鼓膜穿孔や耳小骨連鎖離断が生じるほどの急激な外圧の変化を伴うものとみることも困難であるから(前記認定のとおり、そのような症状があるとの診断はない。)、原告の左耳の難聴が本件作業による騒音によるもの又は騒音と振動の複合によるものと認めることはできないといわなければならない。したがって、原告の難聴は、本件作業による騒音及び振動を契機としたものではあったとしても、それに起因する業務上の疾患であるとは認めることができない。

そうすると、原告の難聴について業務起因性を否定した本件処分は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

五  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今井功 裁判官 片山良廣 裁判官 藤山雅行)

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